金口裕也(かなくちゆうや)
『そろそろ現地の従業員が増えてきました。人事制度が必要かと思ってます。どうすればよいですか?』海外に進出している企業の場合、海外の拠点責任者からこんな声が日本の人事に声掛けがかかってくる時が来ます。そんな時どうすべきか?今回はこのテーマについて経験と考え方を述べていきます。
海外では職務範囲が決まっており、それ以外は手を出さないのが職務文化です。日本の様に従業員がマルチに動く文化は日本と韓国だけだと聞いています。また、日本ではまだまだ年功序列で人事制度も能力によって等級や報酬を決める【職能型人事制度】が一般的です。これに対して海外ではポストが等級、そのポストの責任に対して報酬を支払う【職責型人事制度】が一般的です。もし、海外の人事制度の構築に取り組むのであれば、考え方をまず変えて取り組む必要性があります。
人事制度をつくる前にまずやることがあります。職務分掌の作成です。職務分掌とはその職種が行う業務と求める成果を明確化した書類です。【職責型人事制度】を遂行する上で必須となります。これがなければ何の成果を評価するべきなのか、評価基準はどうするべきかが見えてきません。日本人の様に【あ・うん】の呼吸が通じない海外では【曖昧】が許されませんし、曖昧にしてしますと、出てきた評価は全部100点!と全く人事制度が機能しない事態が予想されます。職務記述書をつくるのは非常にメンドクサイ作業ですが、海外では全ての職種をつくる必要性があります。
10年前、ある外国籍の従業員が当社の事業所に中途入社した際に、すぐに言われたのが『職務分掌を見せてください。』と言われ、『何ですか?それ?』と赤っ恥をかいた経験は今でも記憶に残っています。
あまり深くはお見せできませんが、一例としてインドネシアで従業員全員と面談して作成した職務分掌のサンプルが下記です。
その国に合わせた人事制度が必要で、日本のものをそのまま持ち込むと全く機能しない人事制度が出来上がり形骸化して、誰も真面目に取り組まなくなります。例えば、私がインドネシアの事業所で人事制度構築に携わった2013年は最低賃金の上昇がなんと46%。これを日本の様に5%の賃金上昇の人事制度を入れ込むと従業員は皆やる気をなくしてしまいますし、最低賃金に引っ掛かり違法な状態となってしまうことが予想されました。
また、中国ではすべて手取りベースで従業員が賃金計算する方式ですので、給与から税金、社会保険を控除する考え方はありません。手取りが決まってそのうえで税金、社会保険を計算しなければなりません。その国その国で商習慣やマネジメントの方式が違うため、その国の労働法や習慣を知る必要があります。情報については、JICAなどに行けば、だいたいその国の労働法に関する書籍や、現地のコンサルタントの情報を得ることが出来ますので、書籍を購入して読み漁るかコンサルタントの方に聞いて回ればだいたいの情報を得ることが出来ます。
海外の人材は給与ありきの考え方が多いため、人のつながりと報酬は別物と考えてしまう傾向が強いです。しかも報酬についてはかなり自己主張が強く、勝手に人事が決めて、何も相談せずに公表すれば何人か辞意を表明してくることがあります。メンドクサイと感じる事もありますが、出来るだけ末端社員までの一人一人と面談して職務分掌を作成し、骨格についてはリーダー格を交えながら進めていかなければなりません。リーダー格を味方につけておけば、ローカルスタッフを説得してくれますし、逆に敵に回したり参画させなかったらローカルスタッフとともに足を引っ張る存在になります。日本人も同じですが、自分の意見が少しでも反映されていれば、私も制度構築に携わったという帰属意識が生まれます。
インドネシアでは全員に何をやっているかディスカッションしながら職務分掌を作成しました。
しかし、海外の人事制度をつくるとなるとハードルは高く、どのように進めたら良いかわからない人事の方が大半だと思います。ここで出てくるのが人事制度構築の為に協力してくれるコンサルタントの方です。しかしコンサルタントは慎重に選ばなければ、良い人事制度は作れず、結局費用だけかかってしまったという事になり兼ねません。特に気を付けなければならないのは、パッケージ商品のような人事制度を当てはめてくるコンサルタントです。『世の中ではこれが主流で、御社もグローバル化に合わせてこの人事制度を組み込むべき』と内情も知らずにはめ込もうとするコンサルタントです。会社ごとに内情が違い、国によっても習慣が違うため、そのようなコンサルタントはおすすめできません。
コマーシャルになるかもしれませんが、下記にご紹介するベリタス・コンサルティング株式会社は本当におすすめなコンサルタントです。当社も10年以上お世話になっておりますが、今では自社のみで海外の人事制度を構築できる実力をつけて頂きました。ただ単に人事制度の構築を手伝っていただける以上に、人事のメンバーの実力育成までしていただけます。海外に非常に強いコンサルタント企業です。
ベリタス・コンサルティング株式会社
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執筆者: 金口裕也(かなくち ゆうや)
株式会社マリモホールディングス 国際人事部 部長