金口裕也(かなくちゆうや)
不景気は突然来るものです。私もリーマンショック時の人事を経験しましたが、あの時は不動産業界、建設業界は倒産ラッシュが続き、業界は戦々恐々としていました。当社も例外ではなく、非常に不穏な空気が流れ、会社の方針転換により難を逃れました。ただ、その際求人は全てストップし2年間は新規の学卒採用はしませんでした。ただ、これが後々に問題となった訳です。あの時採用をしておけば良かったと今でも後悔してやみません。なので、今の当社の人事部はコロナショックでも採用は止めない方針で2021年新卒を継続してやっています。
リーマンショックを終えた数年後に当社はマンションデベロッパーから総合不動産業へ変貌するため、いくつかの新規事業を開始しました。今はその事業がマンション以外の柱となっていますが、その当時新規事業の責任者から『元気の良い若手社員を新規事業に転属させてくれないか?』と相談があり、経営陣と組織図をにらめっこしながら人選をしていました。その際に対象者が数えるほどしかいませんでした。しかもその若手は現在の事業部では貴重な戦力になっており、異動は勘弁してくださいと部門長から懇願されました。
『なぜ、こんなに若手がいないのか?』の問いに対して私の答えは『あの時、新規学卒者の採用を止めたからです。』
リーマンの時は、不景気にさらされ、その時の事しか考えられず、数年後に経営者が描いているビジョンを考えずに採用方針を誤った『つけ』が数年後にやってきたのです。人事はよくよく数年後の人員構成、年齢構成を考えて経営者に採用計画を立案しなければならないと肌で感じました。何とか中途採用で乗り切りましたが・・・
リーマンショックの2年後に新規採用活動を再開しました。2012卒の新規学卒求人倍率は1.23倍とリーマンショック前の2.14倍と低下していました。もちろん大手も採用を絞っている時期です。それも後押しして当社が説明会を開くと以前の2倍以上の参加者があり、例年秋採用までかかっていた期間も、7月で内定承諾を取り切り採用活動を終えました。また、その際に採用した若手の2人は今、部門の中心的人物となっており次世代を担うリーダーになっており貴重な存在になっています。売り手市場ではなかなか会えない人物だと今では思います。質も量も満足したシーズンでした。今思えば、2010年卒、2011年卒もやっておけば、当社の若手の層の厚さが出来ていたと思います。結果論と言えば結果論ですが。
コロナウィルスで新規採用を止めた話を最近よく耳にします。当社のお客様でもそのような話を聞きますが、新規学卒者が内定を出し入社し、戦力になるのにかかる期間は3年以上です。この期間を考えて採用するかどうかを決めないと後々に苦しむのは人事の皆さんです。将来の事を考えて採用を止めるかどうかを人事の皆さんから経営陣に提案をしていかなければならない時期がやって来ていると思います。採用の流れを最も知っているのは他ならぬ人事の皆様だと思います。
執筆者: 金口裕也(かなくち ゆうや)
株式会社マリモホールディングス 国際人事部 部長